新入社員に自立と自立が大切だと説く前に、組織において今、誰が最も自立すべきか、自律が求められているかを考えなければならない。
新入社員に求めたいこと、期待することを、彼らを受け入れる経営者や人事部門に尋ねると、一番多い回答は恐らく「自立」とか「自律」とかになるのだろうと思います。
誰かの支えや保護がある前提ではなく、自分の力で人生や生活や仕事に取り組み、成り立たせていくこと、また、人に言われるまでもなく自分で考えて、自ら判断して主体的に行動してほしいといった期待です。確かに、ここのところは学生時代と違うと言えばそうでしょうから、そう期待をするのも分りますが、自立していない、自律性がないのは新人だけだろうかと考えます。
経営陣として自立・自律が不十分な役員、部門を預かる立場として自立・自律が足りない部門長や管理職というのもよくある話で、その辺りを自覚してもらうことをテーマとした研修を行なうことが、だからよくあります。研修のセオリーとして、昇格したてのころ、新任と言える間にしっかり教育する、という方法が広がっているのもそれ相応の自立・自律を促すことがまずは大切だと考えられるからです。
先輩になったら、管理職になったら、幹部になったら、経営陣になったらその立場に相応しいレベルの言動が求められるわけで、新入社員もそれらのステップの中の一つに過ぎません。
立場や環境や期待が変化したときには、誰だって新しいレベルの自立度、自律性が求められます。しかしながら、それに気づかず、何も変わらないままに偉くなってしまったという人がたくさんいて、最近の新入社員のことを「自立してない」「自律性がない」という声をやたらと聞くわけですが、若者のことを言っている場合か?と自問すべきでしょう。
いや、経営として、組織としての緊急性・重要性を考えれば、どっちがより自立してもらいたいかは明らかであって、幹部やマネジャー層の自立していなさ、自律度の低さに悩む多くの経営者も「新入社員たちのことを言っている場合か?」と感じているのではないかと思います。
自立・自律がないのは、幹部・管理職も新人も同じだ(新人だけにそれを押し付けるのはいかがなものか)、ということが言いたかったわけですが、両者には一つ違いがあります。前者はピーターの法則で言うところの“無能者”である可能性があるが、後者はそうでないということ。
幹部・管理職というのはその能力を発揮してきた(有能であった)結果として出世してきたが、その能力は各々のレベルで極限まできていて、もはや現在の立場に相応しい能力を持ち合わせていない(無能レベルに達した)人達であるが、新入社員は全員が有能(まだ無能レベルに達していない)であるという違いです。
だとすると、前者にこれ以上の自立・自律を求めるのは意味がありません。それに対して、後者には必ず意味がある。自分たちは無能レベルに達したのである、もはやこれ以上の自立を求められても、自律せよと言われてもそれは無理というものだ、いうことを踏まえて幹部や管理職が「新人に対して自立・自律を促すべきだ」ということなのであれば、これはとても冷静で説得力のある理屈であります。
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2010.10.21
2010.11.24
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。