三洋電機の「GOPAN(ゴパン)」の人気がとまらない。そう、あの家庭で米から焼きたてパンが作れるパン焼き器だ。
もはや「GOPAN騒動」と呼んでもいいだろう。7月に10月8日発売すると発表したと同時にテレビなどで大きな話題になり、予約注文が殺到。発売を1ヶ月延期し、11月11日の発売と同時にさらに予約は加速。今年度販売見通の5万8千台を既に超えたため、製造が間に合わないとして予約受付を中止。受付再開は来年4月だという。「それでも手に入れたい!」という人も後を絶たない。ネットのオークションでは、実勢価格の4万9800円の約倍、10万円の価格がついている。
11月26日付 日経MJ1面に『パン焼き器「GOPAN」体験型販促 流通を刺激』と、関連記事が掲載されている。三洋電機コンシューマエレクトロニクスは、ホームベーカリー市場年間43万5000台のうち3~4万台のシェアを持っている状態だったという。それが、単一機種で従来の販売数の倍以上にのぼる予約を獲得したことになる。記事では、そのヒミツを<「消費者の体験を重視し、都内で期間限定のカフェを開いたり、都内の成果・製パン材料点でデモンストレーションしたりした」>という点を強調している。それが<コメコパンが普及する中で膨らんでいた「わが家でも作りたい」という潜在需要が一気に顕在化した>と分析している。
確かにGOPANの大ヒットには販売促進(Promotion)の成功という要素が大きく働いている。それも、従来型のマスメディアのプッシュ型コミュニケーションではなく、インターネットを中心としたプル型・口コミ中心のコミュニケーションが販売を加速した点が大きい。それは、2009年8月に発売され、ネットでの話題が話題を呼んで、今なお店頭では品薄が続く「桃屋の辛そうで辛くない少し辛いラー油」、通称「桃ラー」のヒットにも通じる。「手に入るうちに、何とかして手に入れよう」「手に入らないと聞くと欲しくなる」という、一種の飢餓状態がネット上で沸き上がったのだ。
プロモーションは意図して成功した部分と、意図以上に盛り上がって受注がさばききれない悩ましい部分をもたらしたが、GOPANという製品(Product)のすばらしさと相まって効果を挙げたことを忘れてはならない。GOPANは「世界初のコメからパンが作れるホームベーカリー」であり、そもそも「米粉が入手しにくいため米粒をペーストにして焼く方法を考案した」というイノベーションなのである。
イノベーションが普及する要件をE.M.ロジャースが5つにまとめている。
1)相対優位性:前述の通り、従来も米粉を用いるパン焼き器はあったが、米粒から作れるという代え難い優位性がある。また、米粉は小麦粉と比べて独特のモチモチ感があり、それ自体が既にブームともなっていた。
2)両立性:既にあるものと置き換えたり、放棄したりせずに済むという意味では、既存のパン焼き器ユーザーよりも、新規ユーザーが新たに「ホームベーカリー」を取り入れ、同じ米粒という食材で「パン食」と「ごはん食」を両立できるという、両立性の気軽さが受けたのだと思われる。
3)試用可能性:お試しやデモでの購入前確認ができることは、三洋電機の販促の設計通りだ。さらに、試食した人などが「海苔の佃煮や納豆など、和食素材をのせて食べるとおいしい」などという書き込みをネットにしていることも試用の代替として機能している。
4)複雑性:消費者が理解できないほど原理が複雑ではなく、ありがたさがわかる適度な複雑さを持っていることも普及の要件だが、「米粉を本体内で炊飯器のようにコメを水に浸して軟らかくしたうえで、高速回転する羽根で砕きペースト状にして焼き上げる」というような説明がメーカーからなされている。なるほど感が適度にあるといえるだろう。
5)観察可能性:「目に見える効果」を意味するが、誰も製品を手にしていない状態で盛り上がっているため、家庭内での使用者の観察はなされていない。しかし、前述の試用可能性にあるネットの書き込みなどを参照することによって、「見える化」された効果を代替的に実現している。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。