~続・雑誌「BIG ISSUE」の売り子にもらったもの~
「ビッグイシュー(BIG ISSUE)」は、ホームレスの自立支援という目的のために作られている雑誌だ。1冊300円を売って、ホームレスは160円の収益を得る。簡易宿泊所の代金などを得て路上生活からの脱出を図るのだ。(BIG ISSUEのしくみ: http://www.bigissue.jp/about/index.html )
ある「BIG ISSUE」の売り子と顔見知りになったのは、昨年の11月のこと。といっても、それは筆者が相手を認識したという意味で、相手は何度か購入した筆者をとっくに見知っていたのだ。そのいきさつは、以前に記したコラムを参照されたい。
→「雑誌「BIG ISSUE」の売り子にもらったもの:INSIGHT NOW 11月5日記事」
さて、お互いが顔見知りになったという認識ができると、とかく相手が気になるもの。特に彼のいる駅前は、筆者の定番タウンウォッチのルートになっている。ところが、彼の姿が年末年始と見当たらなかった。年の瀬が慌ただしくなる前に最新号を買った。月2回発行なので、少なくとも松飾りが取れる頃には次の号が売り出されるはずだ。
正月休みにして、郷里に帰ったのだろうか。それとも、晴れて自立して売り子を卒業したのだろうか。もしかして、病気でもしたのだろうか。
名も知れぬホームレスの雑誌売り。その姿のない駅前を通るたびに、気がかりさと期待がない交ぜになりつつ増していく自分の心を不思議に思った。
何度目かの通り道。雑誌を右手に高く掲げた「BIG ISSUE」売り独特のポーズの彼を見つけた。いつもの如く、筆者を遠くから見つけてニコリと人なつこい笑顔を投げかけてきた。ポケットの小銭入れから300円を取り出しながら、彼のところに歩み寄って雑誌と交換する。
「しばらく見かけなかったから、故郷に帰ったか、卒業したか、病気にでもなったのかと思ったよ」。と話しかけると、いつものクリクリとした瞳が少しだけ伏し目がちになった気がした。
「故郷に帰りも、卒業もしないですよ」。
いつもより小さな声でポツリと言ったあと、
「カラダは見た目以上にポンコツですが、何とか病気はせずにやってます!」
と、少し声を大きくして言葉を続けた。
何か、触れない方がいいものに触れた。開いてはいけないものを開いた気がして、少し気まずかった。
「もっと寒い故郷で新聞屋をやってたんですよ。頬が切れるくらい冷たい風が吹くところで、真っ暗で星が出ているうちから新聞を配っていたんです。だから寒さには強いんですよ」。
問わず語りに初めて彼が身の上話のようなことをつぶやいた。
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2015.07.17
2009.10.31
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。