いたずらに多読するばかりが学びではありません。本棚にある1冊を再読する。そして類推を利かせる。「再読×類推」―――この2月、知的トレーニングの春キャンプとしてやってみてはいかがでしょうか。
◆1冊の本の「再読・再々読」は栄養吸収がよい
2月はプロ野球の世界ではキャンプシーズン。選手は身体をいろいろいじめて鍛えたり、基本の動作を改めて念入りに練習します。私も毎年2月は春キャンプという位置づけで、仕事の基本である読書を集中的にやります。ここでいう読書とは、情報収集のための“軽い”読書ではありません。プロ野球選手が身体をいじめるのと同様、私もアタマをいじめて鍛えるために、分野違いの、内容の詰まった本を読みます。図書館に行って、哲学書や詩集、学術書、芸術書、歴史書、絵本などを借りてきます。中には途中でやめてしまう本もありますが、読んでいくうちに付箋のチェックが何十箇所にもなり、結局買ってしまう本も多く出ます(やはり自費購入して、がんがん線を引いた本のほうが身に入ります)。
もちろん読書は、新しく開拓する読書ばかりではありません。実際のところ、最も自分の身になるのは、再読、再々読する本です。再び紙面を開く本は、たいていの内容が頭に入っていますから、先に何が書いてあるんだろうという“せかされ感”が起こらず、ゆったりとした気持ちで文字を追えます。以前読んだ時に引いたマーカーのところを中心に読んでいき、「なぜこのとき自分はここをマークしたんだろう」といったようなことを思い返しながら内容を反芻します。その反芻で染みてくることこそが自分にとって大事な内容になります。
たいていの場合、以前読んだ時より、どの箇所も読みやすくなっているはずです。それはそれだけ自分が成長したということの証でもあります。そして今度は、その読み返す箇所に新しい意味を付加する余裕も出てきます。
◆『谷川俊太郎 詩選集』を再読する
例えば、私はきょう本棚から『谷川俊太郎 詩選集1~3』(集英社文庫:3巻)を取り出して、2年ぶりに再読しました。私はそこで再読する詩に新しい解釈を与えてみたり、自分の仕事に引き当てて考えてみたりすることで、いろいろな知恵やエネルギーを湧かせることができます。
◇いちばのうた (部分の抜粋)
うるんならいちえんでもたかくうる
かうんならいちえんでもやすくかう
けちでずるくてぬけめがなくて
じぶんでじぶんにあきれてる
だけどじぶんがいちばんだいじ
よくばりよくぼけがりがりもうじゃ
たにんをふんづけつきとばし
いちばはきょうもひとのうず
……谷川さんの目はたぶん市場の高いところにあって、下々(しもじも)の人間の売り買いを神の目で眺めているような気がします。ビジネス社会の現場にいると、しゃかりきになって、ギスギス、キリキリと戦わねばならない。しかし、そんなときにも、この詩のように、どこか高台に上がって人間のやっていることは“可笑しい”ものだと達観できる心持ちになれれば、もっと日々の仕事に余裕をもって構えられると思います。
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2009.10.27
2008.09.26
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。