日本社会はグローバル化への一途を辿っている。グローバル人材への登竜門として、海外留学を挙げる意見も多いが、海外留学で全員がグローバル人材になれるのであろうか?
英国の教育情報紙『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』が発表した2010年度の「世界の大学ランキング」の結果は、日本の大学に厳しいものとなった。トップ100にランクインしたのは、22位の東京大学と57位の京都大学の2校だけ。残念だが、日本の大学が世界のトップレベルにはないことを感じずにはいられない。トップ10は、アメリカとイギリスの名門大学が独占する結果となった。世界の優秀な頭脳は、アメリカ・イギリスの名門大学に集まり、その中から世界レベルのエリート・リーダーが育っていくのだろう。
社会の著しいグローバル化の流れの中で、グローバル人材の必要性が産業界で高まってきている。現に、会社の公用語を英語にするなど、グローバル化への体制を整備する企業が増加している。
この流れを受けて、海外留学や海外大学への進学の必要性を声高に宣伝する英会話スクールや留学支援企業が増えるであろう。
就職氷河期に苦しんでいる学生にとっては、海外留学が問題を解決する特効薬に思えるかもしれない。しかし、海外留学したからといって、全員がグローバル人材になれるわけではない。
大学生に人気の総合商社。総合商社の新卒社員の半数以上が、東京大学・京都大学・東京工業大学・一橋大学・早稲田大学・慶応大学の6大学の出身者であることからも想像できるように、グローバル企業の人材として活躍できる人物は厳しい競争を勝ち抜いてきたエリートだけである。
最近は採用面で外国人留学生優位が言われるが、彼らの多くが、国内での厳しい競争を勝ち抜いて海外留学を勝ち取っている。大学全入時代で、難関校を除けば、さほど努力しなくとも大学に進学できる日本の学生とは、ハングリー精神とチャレンジ精神が決定的に違うのである。
グローバル化が進む中、海外留学が一部の若者に限定されるものではなくなってきている。しかし、海外大学進学者の就職に関する情報が十分に開示されていないことや、就職活動の物理的制約(選考会場が日本の場合の交通費など)を考えると、海外大学への進学はリスクが大きいと感じる。
そのようなリスクをヘッジするためにも、グローバル人材になることを目的として海外の大学へ進学するのであれば、冒頭の世界ランキングで トップ100にランクインする大学に進学する気概を若者には持って欲しい。
国際感覚や英語力を身に付けることは日本でもできる。例えば、イギリスの経済誌「エコノミスト」や「JAPAN TIMES」を読めば国際社会の動きを把握することができるし、英語の勉強にもなる。また、NHKのラジオ講座は英会話の習得にはコストパフォーマンスの高い学習方法です。
グローバル化というとどうしても海外に注目しがちだが、日本人としてのアイデンティティを持つことが国際人への第一歩であることを忘れないで欲しい。
キャリア教育
籔 孝昭
AllAbout ガイド
金融機関で新規事業の立案や子会社の設立など企業経営全般に携わるとともに、大学や企業で「論理思考」や「マーケティング」に関する講義を行う。そこで、企業が求める人材と学生のギャップを目の当りにして、教育業界に転進。