交渉ではついつい自分の目的達成ばかりに気を取られ、相手がなぜこちらが望んでいるものを出せないのかまで気が回らないことが多々ある。今回は、相手のオペレーションに踏み込んで理解することで、交渉を優位に進められるということを、筆者の個人的ケースでご紹介する。
筆者がオーダーメードのスーツを作った時のことだ。予算があまりなかったので一番安い生地を選んだ所、ボタンや裏地を選べないと言われた。「それではオーダーメードじゃないじゃないか」と一瞬ムッとしたものだが、その時はたまたま機嫌が良かったのか、その新任の店長との関係があまり上手く行っていなかったため、ストレートに感情をぶつけることはしなかった。
前任の店長とは数年来の付き合いで、非常に柔軟に融通を利かせてもらった。今度の新任の店長とは1-2着作ってもらったばかりで、服のセンスやこだわりが筆者とは合わないようだった。駄目なものは駄目とはっきり言ってくる。そうしたこともあって、ここは余り強く押さず、なぜできないかの理由について考えを巡らせることとした。
オーダーメードとはいえ、2万円しない価格である。コストを抑えるためには、オーダーメードでも標準化できる所は標準化しないといけない。そのため、ボタンや裏地のパターンを予め決めることで、ようやくこのコストでサービスができるのだろう。
「そうですよね。この価格でフルオーダーは難しいですよね。追加料金を払っても駄目ですか」と相手の立場への理解を示しつつも抵抗を続けると、普段はあまり融通を利かせない店長が「どうしても嫌だったら言ってくれれば直します。」とボソッと言った。「しめた!言質を取った!」と思ったので、ここはそのまま注文することとした。
出来上がったスーツを見ると、やはりボタンの色が自分の好みとまったく合わない。店長が前に言った言葉を頼りにボタンの交換をお願いすると今回はスムーズに応じてくれた。そして、ボタンの交換が終わって初めて、店長が背景説明をしてくれた。
「この価格帯のものは海外工場で縫製しています。ただ海外工場の場合、ボタンや裏地の資材在庫に限りがあってフルオーダーではできません。」この価格帯のものだけ納期が長いのが気になっていたのだが、店長のこの説明で、ようやく何が起こっていたかの全体像が見えた。
恐らく、この最安値の価格帯はエントリー顧客向けで、リピートの顧客向けではないのだろう。筆者が今回行った方法で注文すると、次の価格帯のものより2割ほど安くなってしまう。店としては、この方法ではなく、素直にもう一つ上以上の価格帯でフルオーダーに誘導するのが売り方なのであろう。また、店としては、海外で縫製していることは積極的に明らかにしたくないようだ。
次のページ相手のオペレーションの制約に合わせて、こちらの要求を通...
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株式会社 戦略調達 代表取締役社長
コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供していきます