2012年3月5日付日経MJ記事。「日航機内食で牛丼デビュー 国際線の限定メニューに 吉野家、女性客に期待」とある。吉野家安部社長は、日航利用者に占める女性客が4割と、吉野家の2割より高い点に注目。「JALで吉野家デビューという人に期待している」と語っている。
この記事のポイントは、企業の成長戦略のフレームワーク「アンゾフのマトリックス」で安部社長の狙いを考えれば意図がわかりやすい。
経済学者のイゴール・アンゾフは、企業の成長戦略を4つにパターン化した。いわゆる「アンゾフのマトリックス」だ。既存の顧客を対象にするのか、新規の顧客を狙うのか。既存の製品を用いるのか、新製品を開発するのか。顧客・製品、新規・既存の掛け合わせの4つだ。「吉野家の女性狙いの日航機内食」は、既存商品で新規顧客を狙う「新市場開拓」という象限に入る。
新市場といっても、地域的な拡張をしているわけではない。従来と違った属性への拡張であり、今回は男性利用者が多い吉野家にとっては女性という新属性を狙ったわけだ。吉野家の2割の女性は日航の4割の女性と丸かぶりしているわけではないので、潜在ターゲットはもっと多いはず。その期待は大きい。
吉野家のもう一つの狙いは、「日航機内食で使われた」という事実によるブランド強化だ。再建中とはいえ、日航のブランドネームは庶民ブランドである吉野家にとってはエンドースメント(裏書き)となる。そして、吉野家は競合のすき家、松屋との低価格競争から一歩距離を置きたいという狙いがある。そうして国内はブランド化による「売上から利益へ」の転換を図り、グループ内PPM(ポートフォリオマネジメント)の「金のなる木」ポジション固め、そこで得た原資を成長分野・「問題児」である中国市場開拓に注ぎ込もうというのだろう。PPMの基本は「金のなる木」には極力コミュニケーションコストをかけずに利益を最大化し、その利益を「問題児」に注ぎ込むことだ。その意味からも、一時は牛丼のテレビCMなども放映していたが、そのコストをかけずに利益を生む新市場を開拓しつつ、ブランド強化になる施策を展開することは理に適っている。
吉野家の「一粒で二度美味しい」今回の戦略がどこまで奏功するか楽しみである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。