先日、「夕学五十講」に登壇された、大阪ガス行動観察研究所所長、松波晴人氏のお話を聴いて、改めて実感したことがありました。(松波氏が行なっている「行動観察」では、店舗などでの人の動きをひたすら観察して事実データを集め、その事実データを分析・解釈し、様々な気づき=インサイトを得ています。)
それは、画期的な新製品や、‘刺さる’広告コピーの開発につながるような
「インサイト」(洞察)
は、「データの中」にはないということです。
では、どこにあるのか?
それは、データを読もうとしている分析者の
「頭の中」
です。
データをいくら眺めても、データの中からはインサイトは決して出てこない。
データを様々な視点から「分析」し「解釈」する。その結果として、あなたの頭の中から出てくるのが
「インサイト」
です。
そして、インサイトを取り出すためには、「統計解析」のようなテクニカルな分析ツールを駆使することに加えて、マーケティングで言えば、下記のような様々な学問・研究領域の知見を
「解釈ツール」
として用いなければならないのです。
・マーケティング理論
・消費者行動研究
・社会学
・人類学
・行動経済学
・人間工学
・環境心理学
・社会心理学
・エスノグラフィ
・表情分析
分析ツール活用のノウハウも、上記のような解釈ツール(学問・研究領域の知見)活用のノウハウも、すべて分析者の「頭の中」に存在するもの。
分析・解釈ツールを用いてデータを分析し、さまざまに解釈してみることで初めて、分析者の頭の中に「インサイト」が生まれる。
繰り返しになりますが、データの中にインサイトがあるわけではないのです。
したがって、インサイトを自分の頭の中から取り出す力を高めるためには、多様な学問分野についての体系的な学習が不可欠になってきます。
さらに言えば、分析者も、一人の消費者・生活者として、豊富な実体験を積み重ねていることも必要でしょう。
例えば、分析者自身は朝から晩まで仕事漬け、人気スポットに行く時間も取れない、テレビ、映画やスポーツもろくに観ない。
そんな分析者が、一般消費者の意識調査データをいくら眺め、分析したところで、有効なインサイトは出てこないと思いませんか・・・?
マーケティング業界ではこれまで、統計解析のようなテクニカルな「分析力」を
高めることについての議論は盛んに行なわれてきました。
しかし、「解釈力」の重要性、および、解釈力を高めるための、学問・研究領域の知見の活用についての議論はほとんどなされてこなかったように思います。
しかし、あらゆるビジネス・マーケティング分野において、日々、膨大なデータが生み出され、そうしたデータの有効活用が叫ばれている今、インサイト導出に使える「解釈ツール」を習得することの重要性はますます高まっていくのではないでしょうか?
『ビジネスマンのための「行動観察」入門』
(松波晴人著、講談社現代新書)
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2012.08.28
2012.09.19
有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー
これからは、顧客心理の的確な分析・解釈がビジネス成功の鍵を握る。 こう考えて、心理学とマーケティングの融合を目指す「マインドリーディング」を提唱しています。