大量のテキストデータ(生の声データ)を‘定量的’に処理できるように加工し、分析を行なうのが 「テキストマイニング」 ですが、テキストデータを定量的に処理せず、そのまま人が読んで分析する 「人力マイニング」 を併用する企業もあるようです。
アサヒビールの品質保証部お客様相談室では、顧客から寄せられる1日10件ほどの応対内容を要約せず、そのままシステムに入力。
担当者の羽鳥敏彦プロデューサーが、その記録された内容全文を読み、文言の強さや独自のキーワードに応じて手作業で
「ランク付け」
して、一覧情報として役員に毎日送付しています。
羽鳥氏によれば、
“1人の人間が一定の感性でやったほうが伝わりやすい。”
とのこと。
同社では、当初テキストマイニングでの分析も試みたそうですが、うまくいかなかったのです。大量の情報から仮説を立て、特定の傾向を知るには、テキストマイングは有効であるものの、日々課題が変わっていくような分析をするには向いていないからです。
さて、テキストマイニングに限らず、情報を‘数値的’に処理し、集計・分析すると、物事の実態が明快に把握できます。集計・分析とは、端的に言えば、情報を圧縮、要約することです。だから、集計・分析結果は理解しやすいものになるわけです。
これは、確かに仮説検証には向いている。
しかし、ものごとの背景で働いている大きなメカニズム、言い換えると「法則性」のようなものが見えにくくなります。私たちは、数字を見ると、細部に入り込んでしまうからです。
ものごとの因果関係を規定しているような
「大きなメカニズム(ある種のパターン)」
を発見するためには、ちょっと引いて全体をマクロに眺めなければならない。
この場合、コンピュータよりもはるかに優れた
「パターン認識能力」
を持っている、人の脳に生データを処理させたほうがいいのです。(パターン認識とは、あいまいでばくぜんとしたものをそのまま処理できる能力といってもいいでしょう。)
実際、マーケティングリサーチャーはしばしば、集計・分析結果を読むだけでなく、それ以前の
「生データ」(エクセル表で展開可能なもの)
や、あるいは郵送調査などであれば、
「調査票原票」
に立ち戻ってデータ全体を俯瞰的に眺めることがあります。そうすると、不思議なことに、新たな切り口や課題が浮かび上がってくるのです。
今、ビジネスの現場では、日々増殖する
「ビッグデータ」
をどうやって効率的に処理し分析するかが大きな課題のひとつです。しかし、データ処理・集計ソフトに依存しすぎることなく、できるだけ生データに近いレベルで
「人力マイニング」
を行い、コンピュータはまず教えてくれない
「深い洞察=Insight」
を発見しようとする努力も必要でしょう。
*アサヒビールの事例は、
『日経情報ストラテジー』(OCTOBER 2012)
から引用しました。
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2012.08.29
2012.09.19
有限会社シャープマインド マーケティング・プロデューサー
これからは、顧客心理の的確な分析・解釈がビジネス成功の鍵を握る。 こう考えて、心理学とマーケティングの融合を目指す「マインドリーディング」を提唱しています。