移民で介護の人手不足は解消できない。物議を醸した差別発言コラムのそもそもの勘違いはそこにある。
2015年2月11日の曽野綾子氏の産経新聞コラムがアパルトヘイトを容認していると、南アをはじめとした各国メディアが非難し、ニュースになった。原文はこうなっている。
『他民族の心情や文化を理解するのはむずかしい。』
『南アフリカ共和国の実情を知って以来、居住区だけは白人、アジア人、黒人と分けて住む方がいいと思うようになった。~中略~研究も運動も一緒にやれる。しかし居住だけは別にした方がいい。』
後日、ご本人は『アパルトヘイトを称揚したことなどありませんが、「チャイナ・タウン」や「リトル・東京」の存在はいいものでしょう。』と朝日新聞にコメントしている。*1無邪気なものだ。もともとこの方は差別的発言で物議を醸すことが多いのだが、おそらく悪いことだと思っていない。この手の老害は大いに問題だが、今回のテーマは別のところにある。
そもそも、この産経新聞コラムのこの回は『労働力不足と移民』というタイトルで、『日本は労働移民を認めねばならない立場に追い込まれている。』という話なのである。『日本に出稼ぎに来たいという、近隣国の若い女性達に来てもらって介護の困難を緩和する』という。高齢者の介護に日本語力や専門知識は不要だから、規制を緩和してどんどん移民を受け入れ高齢者の面倒を見させればいいじゃない、という趣旨なのである。
いつものことながら、弱者蔑視、女性蔑視な内容ではあるのだが、この方一人を糾弾しても世の中は変わらない。実際のところ、移民で介護の人手不足を緩和することを考えている人は意外と多いのではないだろうか。自分がやりたくない低賃金で汚い、キツイ仕事は誰か他の人がやればいいと思うのが人の常だからだ。だが、環境はどんどん変わっている。
高齢化が進み、労働人口が減るのはなにも日本だけではない。国連の2010年推計データを元にいくつかアジアの人口推計が出回っているが、その中のひとつ東京大学社会科学研究所のレポート*2に、アジア諸国が高齢化社会(65歳以上の人口比率が7%以上)を迎える年代が記載されている。
2000年:台湾、韓国、シンガポール
2005年:中国、タイ
2013年:ベトナム
2025年:マレーシア、インドネシア、インド
どこの国でも日本を追いかけて高齢化は進んでいる。日本と同様の高齢社会・人口減少社会になるのはそんなに遠い未来の話ではない。自国や、言葉の通じる国々で仕事があるのに、わざわざ日本に来て低賃金・高負担な介護労働につきたいと思う若者が増えるわけがない。
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