14歳から大人まで 生きることの根っこをかんがえる『ふだんの哲学』シリーズ 〈第2章|成長〉第1話
〈じっと考えてみよう〉
宇宙飛行士は、宇宙ステーションや宇宙船で何カ月間も滞在すると、その間に筋力が衰えたり、骨が弱くなったりする。地上に帰ってきたときには、うまく歩けない状態だという。さて、それはなぜだろう?
宇宙飛行士が宇宙滞在中に筋力が衰えたり、骨が弱くなったりすることは、テレビ番組などでも報じられているので、この現象はみなもよく知っているのではないでしょうか。そしてその原因はなんでしょう───そう、重力がない空間にずっといるからです。
地上にいるわたしたちにはつねに重力がかかっている。そのため、肉体はひとときも休まず重力と戦っています。あなたがいまそうして座っているのも、本を手に持っているのも、顔を上げているのも、あなたの筋肉と骨が重力にさからってがんばってくれているのです。重力という負荷があるから筋肉や骨は鍛えられ、その強さが維持される。
ところが無重力の場所では、体は宙にふわふわと浮く状態で、筋肉や骨に負荷がかからない。そんな状態を何カ月間も続けていると、とうぜん、筋肉や骨が弱ってくる。だから宇宙飛行士は、船のなかで筋肉トレーニングをしきりにやって体を鍛えているわけです。
ところで、水のなかで泳ぐクラゲは優雅に舞っているように見えます。水中では浮力がはたらき重力を小さくしてしまうので、無重力に似た状態になるのです。ですからあのようにふわふわと舞うことができる。けれど、クラゲをひとたび陸にあげてしまうとどうなるでしょう。重力によって体がぺたんとつぶれてしまい、どうとも動けなくなる。その姿はなんともかっこうがわるい。宇宙飛行士は地上に帰ってきたとき、クラゲになりたくないのです。そのために、あえて筋肉と骨に負荷を与えていると言ってもよいでしょう
さて、これと同じことは精神的なことにも言えます。つまり、精神的な負荷はわたしたちの心をじょうぶにするということです。
わたしたちはふだんの生活でなんの苦労も挑戦も役割もなければ、精神的にはとてもラクな状態かもしれない。しかしそれは、精神的になんの負荷もない無重力のなかでふわふわ浮いている状態で、それが長くつづくと精神は弱くなる。人間はやはり、問題や悩みを乗り越えようとする、つらいことに耐える、難しいことに取り組む、人のためになにか役割をになっていくなどのことで、心が強くなる。ふんばる根性がつく。他人の悲しみがわかるようになる。ですから、問題解決に向けて苦労することや挑戦することは、いわば、心を鍛えるトレーニングのようなものなのです。そのために、むかしの人は「若いうちの苦労は買ってでもせよ」とよく言った。
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キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。