2015.11.23
職場のウェルビーイングを考える (2) - 「今、できること」に焦点を当てる
おおばやし あや
SAI social change and inclusion 代表
職場でのうつ病や心の問題は決して無視できない問題です。しかし、メンタルケアそのものに取り組むよりも、組織として人を活かす「ウェルビーイング(より良く生きる)」の実現に恒常的に取り組むことのほうが、あらゆる意味でメリットがあると筆者は考えます。今回はGDPに代わる豊かさの指標として注目されつつあるwell-beingについて、もう少し詳しく解説してゆきます。
関連記事:職場のウェルビーイングを考える (1) - 人を活かし、組織も活かす / (3) - 実践編:自己表現の機会を / (4) - 「フェアな組織であること」 / (5) - スイミーで考える「犠牲にならない」フェアな社員とは
ウェルビーイングを目指す理由
前回、プロではない我々が「心の問題に取り組む」というのは難しさがあるため、発想を変え、ウェルビーイング…人として当然の権利である「より良く在る、より良く生きる」ということ、さらには「人を活かし、組織も活かす」という視点を持てば、取り組みやすくなるのでは、と述べました。
厚生労働省の方針に反対するわけではありません。心の問題の改善の方向へ進むことには変わらないけれど、それはあくまで通過点であり、目標地点にはしないということです。従業員のウェルビーイングに恒常的に取り組むことを通し、最終的には個人の成果や幸福、会社の利益向上、それによる社会貢献も視野に入れていきます。
なぜ心の問題そのものにフォーカスするべきではないのか。ソーシャルワークの世界では、対話、カウンセリングを通してクライアントの問題を共に解決するにあたり、二種類のモデルがあります。(様々な呼称がありますが、ここではわかりやすく下記のふたつにします)
(a) プロブレム・ベース… 原因、過去に焦点を当てる
→→不調の原因を過去から探り、その要因に立ち向かったり、取り除くことで事態を好転させる
(b) ソリューション・ベース… 解決法、未来に焦点を当てる
→→今の状況を把握し、クライアントの解決力、生きる力を励行し、現実的な目標を立てて実行する
想像しやすいかと思いますが、aは原因を探るのに心理的な専門知識が要求され、時に人の心の深淵を覗かなければならないこともありますが、bはそれを必要としません。起こってしまったことはもう変えようがないのだから、過去は振り返らず、今その人の「できること」に着目し、実現可能なことを順序立てて行いながら、目標達成へと導きます。
原因不明の病に対して、a「仮説を立てながら診断をして病理を探りあて、薬や生活習慣改善で解決する」のと、b「それでも今自分でできることを意図的に重ねて健康な体づくりを目指し、(気づいたら)病を乗り越えている」の違いに似ているかもしれません。
どちらも問題解決と健康を目指しますが、ウェルビーイングの理念により近いのは、この(b) ソリューション・ベースモデルです。
原因はどうあれ、現状を見つめ把握し、その人の生きる力に着目して励まし、現実的にできることから行い自信をつけていく。最終的には、体が鍛えられるように心にもまた地力がつくことが期待でき、また基本的にこの対話に医学的知識は必要ないため、同じ組織内の人間が対話の相手役をつとめることができます。そして、他のパーソナルケア(心療内科への通院など)と共存しやすいのも特徴です。
(a) プロブレム・ベースモデルも、もちろん適切に実行されれば効果的ですが、企業単位で行う場合、産業医や産業カウンセラー、保健師などとしっかり提携している必要性があるかと思います。そしてそのような場合、架け橋や窓口の役となる部署・社員との強い連携、また担当者が負の方向へ「引っ張られ」ないようにする対策が必要になるでしょう。
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おおばやし あや
SAI social change and inclusion 代表
Well-beingの実現をめざす起業家として、日本、フィンランドで主に労働者福祉分野で講師や研究開発者として活動。フィンランド国家認定ソーシャルワーカー。 「個と全を活かす」をテーマに、コミュニケーションツール開発や、多くの関連ワークショップ、研修を全国のさまざまな大学、企業、団体さまにて提供させて頂いています。