「他業界や他社」と「自社」の共通点に目を向けてみることが大切。
人事制度を構築(改定)するとか教育研修を行なうとか、そんな検討している際、多くの会社で 「うちの会社は、......といった特殊な部分があるから」、「この業界は、......という面で特別だから」といった発想になってしまいがちです。確かに、事業環境や業界の慣習、会社の歴史や経営者の思想、従業員の状況などを見れば同じ企業は二つとないわけで、制度設計においても研修をするにしても、その独自性は大切にすべきなのですが、「ウチは、この業界は、他とは違うんだ」と思い込むことによるデメリットは小さくありません。
「ウチは、この業界は、他とは違うんだ」という考え方は、すなわち業界特有の発想や方法から抜け出せていないことであり、同業他社との差別化が実現できない(同業他社と同じようなことを繰り返す)という結果になりがちです。また、自社にある歴史や前例にこだわる姿勢は、環境変化に適応するのに必要な変革・改革を阻んでしまいかねません。何のために制度を変えたり、研修をしたりするのか。単に不満を抑えたり、確認テストをしたりするくらいのことなら独自性にこだわれば良いでしょうが、競合優位性を高める、人を育てる、業績を上げるといった成果を求めるのであれば、独自性や特殊性に配慮しながら、他業界に学ぶ、他社に学ぶという発想を持たねばなりません。
必要なのは、「他業界や他社」と「自社」の共通点に目を向けることです。以前に、ある有名ホテルの婚礼営業部の方から「ウチの営業担当者にマンション営業のノウハウを吸収させたい」という話がありました。聞いた瞬間、「?」と思いましたが、曰く、
- 契約してから実施(入居)までの期間が長く、その間の顧客フォローが大切である。
- 一旦決めていただき、その後にオプションの提案をしながら価格を上げていくという手法が同じである。
- 立地という如何ともしがたい点を、いかにしてカバーするか、納得してもらうかがポイントである。
- リピート客が想定できないので、口コミと紹介をいかに増やすかが大切だ。
といった点が共通しているので、敢えて他業界からそのノウハウを学びたいということでした。
こうやって共通点に焦点を当てると、自社や業界内にはなかった気づき・発見が生まれる可能性があります。自分たちがやっていることの妥当性やレベルをチェックする機会にもなるでしょうし、そこから工夫やヒネリや新手法が出るかもしれません。「特殊だ」と思いこんで内にこもり、こういった視点や刺激を得ることがないと、これまでやってきたことを徹底する、マニュアル化するという方向にしか思いが至らなくなります。「特殊でないこと」は必ずあるはずなのに、「特殊だ」と思い込む(共通点に目を向けない)ことによって、進歩・進化するチャンスを失っている会社は少なくないように思います。
例えば、ビジネススキルを学んでいる社員に対して「ウチの業界ではちょっと使えないなあ」、「ウチのお客さんには通用しないだろうなあ」などと言って、その学びを否定してしまっていないか?他の業界にいる人達との交流で何かを吸収してきた社員の人に、「それは、その業界だからやれていることだろう。」と言っていないか?といったことです。
一方で、差別化だ、他社と違うことを考えろというのは無理・矛盾というもので、そのような要望をするのであれば、「ウチは特殊だ」と思わず、自ら他業界や他社との共通点に目を向け、積極的にそれを吸収していかねばなりません。
組織というもの
2011.09.13
2011.08.02
2015.08.07
2016.01.15
2016.01.29
2016.02.12
2016.03.11
2017.08.04
2017.08.17
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。