~高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~ 1980年~90年台にかけての日本経済のバブルが膨れ上がって破裂前後の頃の、筆者のドロドロの商社マン生活の実体験をベースに、小説化しました。 今も昔も変わらない営業マンの経験する予想を超えた苦楽物語を、特に若手営業マンに対して捧げる応援メッセージとして書きました。
第三章 初めての海外出張
「こ、これが戦時体制の空港か!」
バンコック経由ドバイで一泊し、翌日イラン航空機で丸まる
2日間かけてやっとテヘラン空港に到着し、入国審査窓口に向かっ
た宮田は驚いた。
税関の係官がいる検問所への通路の両側に、日本ではまず見かけ
ることはない重機関銃で武装した兵士が何人もずらりと並んで、
入国審査待ちの乗客を睨みつけて立っている。
< な、何なんこれ・・・? >
成田空港では到底考えられないようなその威圧感からくる重苦しい
緊張感の漂う空気に触れたその時て、初めて宮田は心のそこから後
悔した。
< あー。日本酒なんか持ってくるんやなかった。あー・・・・ >
後悔先に立たずとは、まさにこのことである。
兵士が並んで立っている後ろの壁にはイランの高名な宗教・政治最
高指導者であるホメイニ師の大きな顔写真がずらりと飾られている。
「宮田さん!!。 お酒、大丈夫ですかね?
この雰囲気だと見つかったらただじゃすまされないですよ・・・」
一緒に東京から現地入りした、丸の内重工のベテラン技師
である内村が心配そうに尋ねてきた。
「かといって、今ここで飛行機に戻ってずっと隠れているわけにも
行きませんし。 捨てるといっても、この兵隊の列の中では・・・。
なるようにしかならないですよ!」
宮田は虚勢を張って答えた。
「Next!」
ついに宮田の順番がやってきた。 係官が大きな声で指示した。
「Open!」
宮田はスーツケースのフタをそっと開けながら祈った。
< どうぞ神様。仏様。 見つかりませんように・・ >
日本の神様が逃げ切るか。
イスラムの神様がそれを阻止するか。 ふたつにひとつである。
立派な口ひげを蓄えた長身のイラン人係官は、いくつかの荷物に
触れ、ごそごそと調べた後、意外にもすぐにふたをパタンとしめて、
「OK. You can go」
とあっけなく言った。
宮田と、横にいた内村技師は顔を見合わせ、ほっと安堵した。
「サ、サンキュー!」
< やった! 助かったやないの! >
小躍りしそうになるのを押さえて、努めて冷静さを装いながら、
その場を敢えてゆっくり立ち去ろうとしたその時、係官が突然宮田
を呼び止めた。
「Wait! What is that? Show me!」
そう言って係官が指差したのは、宮田が手に持っていた日本の若者
向け男性週刊誌であった。
係官が週刊誌を手にとって最初のページをめくった。 そこには、
女性の鮮やかな水着写真が飛び出してきた。
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