経団連による、採用活動開始時期を遅らせるという方針は、学生の就職状況を更に悪化させる可能性がある。
13年春入社の新卒採用について、日本経団連は「エントリー受付や説明会の開催を12月以降にする」ように会員企業に求めるという報道がありました。現状、3年生の10月から始まっているのを、2ヶ月遅らせるようにしようということですが、なんと中途半端な対応策だろうと思います。根本的な議論をせずに、会員企業や大学からの意見を聞いてみて、それらの「間をとったら、こうなりました」ということでしょうが、事態は悪化するものと考えます。
この対応策を簡単に言うと、3年生の10月からエントリーや説明会などが始まり、選考が4年生の春~秋までなので、約1年間、就職活動が続く。この状況が大学の運営や学生生活に支障を来たしているので、就職活動の期間1年間を10ヶ月に短縮しようということです。これで誰が喜ぶかというと、その2ヶ月間だけは、曲がりなりにも学生が授業に出てくるようになって格好がつく大学関係者と、放っておいても学生が集まってくるので採用開始時期がどうなろうと大して関係のない大企業の人事部です。就職活動の主役であり、最も支援してあげるべき学生たちにとってはどうでしょうか。
就職活動の期間が短くなると、会社説明会や面接・選考へ参加する機会が減ることになるので、今よりも就職できるかどうかという不安が増すことになります。少ない機会は大企業や憧れの企業への応募に割かれてしまい、知られざるいい会社や中小企業の情報を得ることがないままに就職活動期間が過ぎてしまう学生が増えます。人気企業に今よりも応募が集中する上に、他にチャレンジする期間を短くするのですから、内定が取れない学生が増える(中小企業の採用難がさらに進む)可能性は高いでしょう。日本経団連も、当然そうなることは分かっているので、2ヶ月という実に中途半端な期間短縮にし、大きな影響が出ることを避けたのだと思います。
「就職活動の長期化」を問題にするのが、そもそもの間違い。長期化は、結果に過ぎません。だから、今回のような期間短縮では、何の解決にもなりません。
就職活動が長期化した原因は、『大手だから、有名だから、○○業界だからという動機だけで就職先を決める学生が、非常に増えている』からです。その結果として、大企業でも短期間で十分に満足できる採用がしにくくなって(大きいとか業界とかだけを志望動機とする学生ばかりで、困っている)、夏採用、秋採用と継続せざるを得なくなり、中小企業は大手が終わってからでないと採用活動を始められない状態になっています(学生の大手志向が強まっているので、集まらないし、辞退を考えると内定も出せない)。
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。