企業はなぜ、わざわざ 埋もれてしまうようなサイトに出稿するのか?
新卒の採用は、すっかりwebに移行しているので、どのような採用サイトを選ぶのかは企業にとって重要なポイントとなっている。ところが、どんな基準で採用サイトを選ぶのかを伺うと、その話に首をかしげてしまうことが少なくない。
例えば、「掲載している会社の数が多いこと」を基準にしている会社がある。掲載社数が6,000社のサイトと7,000社のサイトであれば、後者の社数が多いほうを選ぶらしい。「出稿している会社の数が多いほうが、信用が置ける」「より多くの会社が支持しているサイトのほうが安心だ」といった発想である。
普段、個人としてモノを買うときに、売れ筋に惹かれるのと同じように考える(ランキングや他の人はどうしているかで決める)のだろうと思う。だがこの発想は、登録している学生の数が似たようなものであれば、掲載社数が少ないほうが自社への応募者が多くなる、という当たり前のことを無視している。仮に、登録学生数40万人が、平均20社にエントリー(応募)したとすると、計800万エントリーになるが、これを掲載社数6,000社で分け合えば800万エントリー/6,000社=1,300名のエントリーが獲得できるのに対して、7,000社のサイトでは1,100名にとどまり、約200名の差が生じる。
エントリーで200名の差があると、接触できる学生の数では100名近い差になり、採用数にして2~3名も違ってくる可能性がある。社数が多い方のサイトに出すのは、わざわざ目立たないところに埋もれに行くようなものなのだ。ネットショップをどこかに出店しようという会社が、「出している店の数が多いから」という理由で楽天市場に出すケースは多いが、結局は埋もれてしまって目立たず、売れ行き不振で撤退してしまうというのと同じ話である。
他に、「有名企業や大企業がたくさん出していること」「学生に人気の業界が、多く掲載しているから」というのも理由に上がる。一覧で企業が表示されるときに、有名人気企業が並んでいるところに自社も掲載されているほうがイメージがいい、不人気業界の会社と一緒に一覧で出てくるのは嫌だ、と考えるのだろう。これも見事に逆だ。有名人気企業があればあるほど、そちらにエントリーが集中し、自社へのエントリーは減るのである。不人気業界の中にあったほうが、自社へのエントリーは増えるだろう。リアルの世界では、人気のお店の横に出店して、その集客力のおこぼれにあずかろうというコバンザメ戦略もあるが、ネットではそのようなことは起こらない。
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。