景気低迷による求人数減少という問題でなく、学生の就職内定率低下という問題でなく、その奥底に進行する「働くことを切り拓く力」の問題について考える。
◆ネット検索…「命」!
昨年9月、大学4年生でまだ就職内定をもらっていない学生たちと話す機会があった。すでに就職戦のヤマ場は終わり、不安な気持ちで日々を送っていた彼らだった。いまやネット上で初期の選考プロセスが行われる時代である。ネットを通じての応募は手軽だが、そのために「40社申し込み/40社不戦敗」などという状況が簡単に起こる。
学生たちは、興味関心のあるワードで検索をかけて候補企業を見つける。検索ワードも、上位志望の選考から外れるにしたがって、だんだん自分の気持ちとは逸れはじめるが、もはや「拾ってくれるところならどこでも」という心境になる。
就職課に相談に行っても、職員はていねいに話を聞いてくれるものの、自分のやりたいことなどいまだはっきりせず、「もっと発想を広く持って検索をかけてみれば」と促されるのみだ。そんなこんなで検索とネット申し込みを繰り返すうちに、2カ月が過ぎ、3カ月が過ぎ、やがて検索に引っ掛かってくる候補がゼロになる。
「毎日検索かけてるんですが、なかなかもう新しい案件が出てこないので……」とS君。夏以降、S君は実質休戦状態となった。大学4年生の残りの期間を卒業研究をちょこちょことやり、アルバイトをやり、日々、検索を続けながらやるせない時間を過ごしているという。S君に限らず、候補とする企業が検索にかからなくなったら、もうそれ以降どうしてよいかが分からず、就活が即、どん詰まりになってしまう人は実際のところとても多い。
こうした状況を、不景気だからしょうがない、と済ませることはできない。そして同時に、「就活力」などという一種のスキルのあるなしの問題でとらえることも事を矮小化することになる。職を得る力は、一個一個の人間の「生きる力」の根本に関わる問題なのだ。そしてそれは国の趨勢に大きく影響していく。
◆職選びが「カタログショッピング」になった
いまの大学生にとって職業選択は、言ってみれば「カタログショッピング」のようなものになっている。つまり、ネット上のカタログには新卒者向けの「職業」という商品がたくさん掲載されていて、そこに検索をかけて絞り込み、「あれがよさそう、これがよさげ」と物選びをする感覚だ。まさに、ネット通販サイトでお気に入りの雑貨を探し当て、買い物するのと同じ。
サラリーマン就職するとは、ある見方をすれば、自分の能力と時間を資金として、会社員という職業を買いにいく行為だと言ってもいい。で、昨年の場合、その「お仕事カタログ2010」に記載された商品はいずれも在庫数が僅少で、欲しいと思った人全員が購入できる状況ではないのだ。
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【働くことを切り拓く力】
2011.01.11
2011.01.11
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。 『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)はじめ「コンセプチュアル思考研修」、管理職研修、キャリア開発研修などのジャンルで企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。