東日本大震災の影響でサプライチェーンが寸断され、多くの企業が供給停止になっていることを受け、効率・利潤追求を目指し在庫を極限まで減らすジャストインタイムの弊害が喧伝されている。果たして、震災を理由に、ジャストインタイム生産(JIT)を見直し、在庫を積み増すべきか?
答えは明確に「No」。
ではすべての企業でJIT、在庫削減を実施すべきか?これも答えは明確に「No」。
これらは問題の立て方が間違っている。
そもそも在庫で今回の震災に対応できたであろうか。恐らく、焼け石に水であったろう。災害時に在庫を持っていても、同じ拠点にあれば同時に毀損し使えなくなっていた可能性もある。リスク分散のために在庫を離れて持っていては、緊急時に間に合わない。また、今回の被災では交通網、物流網が寸断されている。これでは、非常時用の在庫の意味がない。
仮に在庫が使えたとしても、どれだけ在庫を持てば良いのだろう。今回の震災では、非常に多くの業種の工場が被災し、生産停止、供給不足となっている。モノの生産はネジ1本含めて欠品があれば止まってしまう。基幹部品だけでなく、ネジ1本に至るまであらゆる品目において在庫を積み増すというのだろうか?今回の震災に在庫で対応するというなら、二か月、三か月、いや半年分はすべての品目について在庫を持っていなければ対応できなかったであろう。災害や事故は起こってからでなければどの品目に影響が出るのか分からない。特定の品目に絞って、ピンポイントで在庫を持つことで対応できる問題ではない。
企業の目的は、事業でお客様に報いること。そのためには、利益を継続的に挙げていく必要がある。在庫は、経営、オペレーションの問題を見えなくする。在庫は、営業-計画-生産-調達-物流のバッファーであり、これを多めに持つことは、オペレーションの弱い部分を隠すことになり、その弱い部分が企業の足を引っ張るまま、いつまでも問題を内在させることになる。
在庫を保有することはコストだ。在庫は、保有金額の2~3割の管理コストが掛かると言われている。それだけ、オペレーションコストが上がってしまう。また、在庫を多く持って経営している分だけ、資産効率も悪くなり、ROA、ROEが低くなる分、投資家からの評価も悪くなる。在庫を多く持つということは、オペレーションの効率だけでなく、資金調達にもマイナスの影響を与えるということだ。
在庫を持つことは、経営の機動性にも大きな足かせとなる。在庫は、商品の改廃、新製品投入のタイミングにも影響する。在庫があると、企業としてはそれを使い切るまで商品の改廃、新製品の投入を遅らせたくなる。これは製品在庫の問題だけでない。部品、原料在庫であっても、特定製品だけにしか使われないものは多々あり、これらの在庫の持ち高は、それを使う製品の改廃、新製品への切り替えタイミングを遅らせる。
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株式会社 戦略調達 代表取締役社長
コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供していきます