「強みに焦点を当てよ」は、研修担当者に何をメッセージしているのか?
「ウチの社員は、レベルが低いので」という人事の方は、非常に多い。ご依頼いただいた研修の企画案をお持ちすると、ウチの社員が理解できるだろうか、ウチの社員にこれができるだろうかという心配をされ、企画の変更を要望されるので、謙遜ではなく本当にそう思っておられるようだ。そう感じてしまう理由は様々なのだろうが、研修を担当するようになってからの勉強量がそう思わせるのかもしれないし、普段から人事部に寄せられる要望や質問の内容でそんな風に感じるのかもしれないし、社長や現場長がそのように人事担当者に言っているからかもしれない。
ドラッカーの有名な言葉に、「強みに集中せよ」がある。意味の一つは、個人にしても組織にしても、苦手や弱みを普通レベルや得意となるまで引き上げていくことはとても難しいので、強みを更に伸ばすほうが効果的である、ということ。もう一つは、「組織のメンバーが同じような強みを持っていても、それは外から見れば弱みがある状態」であって、逆に「各々が異なる強みを持てば、外から見て弱みがない状態にすることができる」ということだ。この観点から考えると、「ウチの社員は、レベルが低いので」という発言は、まさにその逆で、弱みに焦点が当たってしまっていることがよく分かる。
自社の人材には共通してこのような弱みがあり、それが原因で成果が上がらなかったり、組織がうまく回らなかったりしているので、その克服のために研修を行う(研修はそのためにある)、というのが多くの人事部が持つパラダイムである。このような視点で企画される研修は、最低限のレベルを設定してそれをクリアすることを求める。また、皆が同じように共通してできるべき内容を決めて、それを習得することを求める。形式が異なるだけで、運転免許の試験や資格試験のようなものと発想は同じだ。社員の弱みに焦点が当たっている人事マンが行う研修は、知らないこと、できないことを、ちゃんとできるようになってもらうような内容ばかりになる。
ドラッカーの「強みに集中せよ」は、そのようなパラダイムでは組織を強くならないと言っている。人には誰しも弱点や改善すべき点があるが、逆に、誰にだって強みや長所があるのだ。そこに焦点を当て、それをもっと伸ばせというのが「強みに集中せよ」の意味であり、人事部はこの言葉に基づいてパラダイムを転換すべきだろう。研修を効果的なものにしたいという目的で、テーマや伝え方や講師や時間帯や参加者やと様々な工夫をしておられるのはよく見て分っているが、もっと根本的なことに気づかねばならない。研修は、弱みの克服のためではなく、強みの伸長のための手段としてもっと用いられるべきなのである。
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。