『民間医局』はなぜ、医師紹介で日本一なのか? 第二回

医療制度はいま、大変動期を迎えている。医師の紹介に関して圧倒的な影響力を発揮してきた大学医局が弱体化、若い医師を中心に自由な動きが活発化している。そんな状況の下で急激に業績を伸ばしているのが『民間医局』、メディカル・プリンシプル社が展開する医師限定の人材紹介業だ。その登録医師数は他社の追随を許さない、しかも優秀な医師が多く集まっている。同社のビジネスモデルと成功の秘密を中村敬彦社長に伺った。

第二回
「追い風と強烈な逆風の中で」


■勝算ゼロからのスタート

「正直、目算や勝算なんてまったくありませんでした。目指すべき目標ははっきりと見えていましたよ。それはあるけれども、そこに間違いなくたどり着けるなんて自信があったかと問われたら、そんなの全然なかった」。

医師を専門とする人材紹介業は『民間医局』がスタートした時点で、すでに他社が手がけていた。「だから単なる人材紹介ビジネスとして考えれば、我々に先進性があったわけじゃありません。ただし我々は従来型の医師紹介をやるつもりはまったくなかった」。

既存の医師紹介ビジネスとは、どちらかといえば一匹狼的なお医者さんに働く場所を紹介するモデルだった。大学医局の支配力が強すぎたために生まれたすき間ビジネスと言っていいだろう。医局の支配を嫌ってそこから飛び出す医師は、当然干される。勤務医として働く場所を見つけることが難しくなるのだ。医師の勤務先について医局が持っていた権力はそれぐらい強大だった。医局の指示に背いた医師に残された選択肢は二つ、開業するかあえて火中の栗を拾う覚悟で自分を雇ってくれる病院を探すかしかない。

こうした医師を雇う病院にはそれなりの覚悟が求められる。少なくともその医師の出身大学とその系列大学からは今後、一切医師を派遣してもらえなくなる可能性がある。そうしたリスクを犯しても医師の定員不足を補わなければならない病院が、どんな状態かは容易に想像がつくだろう。

医師の転職がそんな状況だったから『民間医局』も当然、同じ目で見られることになる。いくら目指すところが違うとはいえ、最初から相手を説得できる実績などあるわけもない。一つ目の成功事例ができるまでは、どんなに理想を語ってもそれは空理空論に過ぎないのだ。

金融マンならではのシビアな視点を持つが故に中村社長は、勝算アリなどと自信を持つことはできなかった。「ただ信じてはいました、我々がやろうとしていることは、社会にとって絶対に必要なことなんだと。必要なことは必ずいつか実現するはずだと」。

日本の医療をより良くしたいというホットな思いと使命感。そしてマクロな流れを読んで見出したチャンスに狙いを定めてクールに組み立てられたビジネスモデル。『民間医局』は21世紀を目前に控えた1999年、静かにスタートした。

■難攻不落の大学医局をどう落とすか
『民間医局』が対象とする医者は、従来型の医師派遣業のようなアウトロー的ドクターではない。大学医局にたくさんいる優秀な医師に、より良い働き場を提供することがビジネスモデルの根幹である。では、彼らにどうやってアプローチをかけるのか。

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