「講師の心.com」(http://www.koushinococoro.com/)に寄稿したコラムを転載しました。
アベノミクスにおける三本目の矢、成長戦略において、雇用規制の緩和が議論されているのは歓迎すべきことです。企業を元気にするには、金融や税制面での支援、企業活動の自由を縛るような諸々の規制の見直しだけでは不十分で、日本の人材力を活かすための改革が必要だからです。しかし今のところ、「解雇規制の緩和」ばかりに焦点が当たっており、金銭解決による解雇を認めてしまえば失業者が増える、雇用不安が増すといった反対論が噴出しています。このままいけば、解雇規制だけではなく、雇用に関する改革全体が先送りされるのではないかと危惧しますし、それは成長のチャンスを逃がすことにもつながるだろうと考えます。
「解雇規制の緩和」について言えば、金銭解決による解雇を認めるのは、そう悪いことばかりではありません。まず、理不尽な処遇や扱いを行って、むりやり退職に追い込むような例は減るでしょう。現在、会社は厳しい要件をクリアしない限り、社員を解雇できないので、自分の意思で退職してもらうしかなく、あの手この手で退職を迫るようなケースもあります。しかし、会社だってそれを好き好んでやっているわけではないので、金銭解決の道ができれば、陰湿な辞めさせ方はしなくなりますし、従業員側もお金をもらって辞めることができます。
採用のハードルも下がるでしょう。辞めさせられない人の採用に慎重になるのは当然で、正社員採用とパート・アルバイト採用の面接の回数や選考手続きが違うのは、そのせいです。正社員であっても、金銭の支払いによって雇用関係が終了できるのであれば、企業は採用に前向きになるはずです。若年層の就職難や失業率の高さが問題になっており、これを放置すれば将来的には大きな社会的損失につながるでしょうが、解雇規制を緩和して採用のハードルを下げることは、この問題の解決策の一つになり得ます。つまり、「解雇規制を緩和すると失業者が増える」とは言い切れず、若年層の正社員雇用が進み、かえって総数としては増加する可能性もあります。
一方、雇用差別を禁じる方向での規制強化も必要です。一つは、男女差別の問題。男性しか採用しない会社、女性の管理職や役員がいない会社、女性の業務内容や昇格などに制限を設けている会社は、まだまだ沢山あります。男女雇用機会均等法の施行から27年が経ちますが、依然として有能な女性を十分に活用できていない状況であり、保育所の拡充といった環境整備だけでなく、採用・登用についての具体的な数値目標と、場合によっては納付金制度を設置するなど、踏み込んだ施策が求められる段階ではないかと考えます。
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。