iPS細胞最新事情「iPS細胞で何ができるのか」

2016.03.29

ライフ・ソーシャル

iPS細胞最新事情「iPS細胞で何ができるのか」

竹林 篤実
コミュニケーション研究所 代表

2014年9月、患者のiPS細胞からつくった網膜細胞の移植手術が、世界で初めて行われた。これでiPS細胞の実用化が一気に進むと期待されたものの、ビッグニュースは今のところ聞こえてこない。けれども、iPS細胞を活用する研究は、驚くほど多方面で着実に進められている。中でも、いま最も期待されるのが、がん治療への活用だ。

そもそもiPS細胞って?

人の体は、細胞によって構成されている。その大きさは、わずかに10ミクロン程度。これが約37兆個集まって、人の体ができる。細胞の種類は、ざっと100種類ある。

ただし、元をたどれば、すべての細胞は受精卵に行きつく。受精卵が細胞分裂を繰り返す中で、ある細胞は神経細胞となり、また別のものは異なる細胞へと変わっていく。これが「分化」と呼ばれる現象だ。分化は一方向にしか起こらない、つまり神経細胞が元の受精卵に戻ることはない。

この常識を覆したのがiPS細胞だ。どんな細胞であれ、山中因子と呼ばれる4つの遺伝子を入れることで、受精卵に近い状態(=iPS細胞)に戻すことができる。逆方向に分化を起こしたことが、ノーベル賞の受賞理由だ。

できたiPS細胞には、2つの特長がある。どんな細胞にも変身できることと、半永久的に増やせることだ。だから、冒頭の手術のように網膜細胞が弱ってしまった場合、iPS細胞で新しく網膜細胞を作りなおして移植すれば元の状態に戻すことができる。

最初の手術の好調な経過

昨年10月、世界初となった網膜再生手術の1年後の経過が発表された。結果は良好、懸念されたがんなどの異常は見られないとのこと。特に「がんはない」と強調されているのには理由がある。iPS細胞を実際に使う場合の問題点として、細胞のがん化があるのだ。

細胞には、生命の設計図を構成する物質DNA(アデニン・チミン・グアニン・シトシンの4種類)が入っている。これが約30億個、決められた順に並んだものがゲノム、つまり細胞の設計図である。細胞が分裂する時には、ゲノムもコピーされる。とはいえ30億ものつながりがあるから、時にどこかでコピー間違いの起こることがある。

このゲノムの変異ががんを引き起こす。そして、人工的に作られたiPS細胞では、変異が起こりやすいことが問題点の一つとされていた。ただし、この問題は、技術の進化によりほぼ解消されている。

iPS細胞の安全性を確かめるためには、元になった細胞とできたiPS細胞のゲノム配列を比べればよいのだ。具体的には30億文字の配列を比べて、違いがあるかどうかを確かめればよい。コンピュータパワーの劇的な進化により、1975年には1日1万文字だった解析ペースが、今では30億文字を2日で読めるレベルまで進んでいる。これは、今後も早くなると予想される。早くなれば、その分コストも下がる。

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