~高度成長からバブルを駆け抜け、さらなる未来へ~ 1980年~90年台にかけての日本経済のバブルが膨れ上がって破裂前後の頃の、筆者のドロドロの商社マン生活の実体験をベースに、小説化しました。 今も昔も変わらない営業マンの経験する予想を超えた苦楽物語を、特に若手営業マンに対して捧げる応援メッセージとして書きました。
第一章 田舎学生から激動の社会人生活へ
関と宮田を載せたトラックは、品川を抜け第三京浜を経由して
約30分後、JR大森駅の近くにある後藤鉄工所の前で止まった。
車を降り立った宮田の目の前には大きな工場の門があり、複数の
鍵で施錠され閉まっていた。
隣にある事務所のほうへ移動して、窓越しに中をこっそりのぞい
てみても、中に人のいる気配がしない。
関は、おかまいなしに事務所のドアをガチャガチャと荒々しく開
けて、中に入っていった。
事務所の鍵はあいていた。
< ええんかいな。そんな勝手に入って・・・ >
宮田も置いていかれまいと関の後を追った。
「すみませーん! 誰かいますかー?」
関の大声が事務所の中に響き渡ったが、
シーンとしていた。
「ちくしょう。やっぱり遅かったか・・・。
銀行の連中は本当に早いよ。 血も涙もない。
商社以上にハゲタカだ」
宮田には関が吐き捨てるようにつぶやいた言葉の意味がよくわか
らなかった。
誰もおらず、電気もついていない薄暗い事務所の中を必死に目を
見開いて見渡してみると、机やイスなどの事務機器がなく、なに
やらがらんとしており、もぬけの殻といった様子であった。
事務所の奥には社長室があり、そこに入ってみると、この会社の
オーナー社長のものであろうか。
誇らしげに微笑む恰幅のいい紳士の大きな顔写真が、額に飾られ
壁に掛けられていた。
「社長は夜逃げしたに違いない。
あー、後藤さん、さぞ辛かったろうなー・・・。
おい、宮田。 次は工場にいくぞ!」
宮田は、関の後を追って工場に入り、ずらりと整列した機械を
見て、初めて関が口にした言葉の意味がわかった。
全ての機械の表面にこのような張り紙が張られていた。
{本物件は、XX簡易裁判所において、XXX年○月△日をもって物件
立ち退きの判決を受け、この日を持って以降、如何なる者の立ち
入り、又は動産等の移動をしたものは、即時建造物侵入、又は窃
盗などにより、刑事告訴する。
所有者YYY銀行 代理人弁護士◎△太郎}
関が言った。
「宮田よ。
どの機械の表面にも、こんな紙切れがべたべた張られているだ
ろう。 貸し倒れになった売掛債権を回収するために、銀行が転
売用として差し押さえたんだ。 銀行は、倒産したらその日にでも
差し押さえに来るからな。 事務所に机とかイスとかが全くなかっ
ただろう」
< そういえばそうやった・・・ >
「転売可能で持っていけるものは鉛筆一本だって何だって持って
行く。 この機械のように工場に据え付けられていて、重くて
すぐ運べないものにはこうして張り紙をして権利を主張する。
銀行に比べたら商社なんて甘いものよ」
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