ホスピタリティーと余計なお世話の違い:サービスとは何か?

2013.11.27

経営・マネジメント

ホスピタリティーと余計なお世話の違い:サービスとは何か?

松井 拓己
松井サービスコンサルティング ・サービスサイエンティスト

「おもてなし」や「ホスピタリティー」と言われても、実はサービスの現場では「明日から具体的に何をしたら良いのかピンとこない」というのが本音のようです。その結果、良いサービスをしようと頑張ったら「余計なお世話」と言われてしまうことも。「おもてなし」や「ホスピタリティー」のような価値あるサービスを実現するには、具体的にどうしたらよいのか?それをサービスサイエンスの視点で捉えてみたいと思います。

前回の記事では「サービス品質を上げろという指示ではピンとこない」というところから、サービス品質を6つに分解すると具体的な努力のポイントが明確になるということを、サービスサイエンスの理論と共にお伝えしました。そこで今回は、よく耳にするようになった「おもてなし」「ホスピタリティー」と「余計なお世話」とを決定的に分けるものは何かについて考えることで、ホスピタリティーサービスを実現するための努力のポイントを見出してみたいと思います。


■「おもてなし」「ホスピタリティー」をスローガンで終わらせてはいけない!

最近では実に様々な業界で「サービスで差別化する」というキーワードが取り上げられるようになりました。それにともない「我が社の強みはおもてなしの心だ!」「ホスピタリティーサービスを目指そう!」と社内で議論される機会が増えてきているのではないでしょうか?しかし実態は、そのためにサービスの現場で明日から何を頑張ったら良いのかを具体的に示せていないことがほとんどです。その結果、拠点やスタッフごとにサービス品質がバラついたり、お客様から「余計なお世話」と言われかねないような努力を必死にやっているなんてことも多々あります。

 では、サービスでお客様に喜んで頂くためには、具体的にどんな努力をしなければならないのでしょうか?


■「余計なお世話」はサービスですらない?そもそもサービスとは何か?を理解することが最初の一歩

お客様に喜んで頂くために、例えば下記のような努力をしていることがあります。
『コンシェルジュサービスを目指して、お客様に丁寧に説明したり、専門知識を活かして色々とアドバイスをしよう!』
これは果たして「気の利くサービス」と言えるのでしょうか?

 確かに、初めてで不安を抱いているお客様にとっては気の利くサービスかもしれません。しかし、専門知識を持っていたり、既に心が決まっているお客様してみれば、余計なお世話や無意味行為となってしまいそうです。すると恐ろしいことに、良かれと思ってサービス提供者が頑張るほど、このお客様は不満を募らせて離れて行ってしまいます。こういうことは、サービスの現場ではよくあります。

 では、余計なお世話と言われないためにどうしたら良いか?先ずは「サービスとは何か?」を理解することです。

 サービスとは?その定義はこうです。
「人や構造物が発揮する機能で、お客様の事前期待に適合するものをサービスという」

 この定義で最も重要なポイントは「お客様の事前期待に適合したものだけを“サービス"と呼ぶ」ということです。では逆に、お客様の事前期待に適合しないものは何と呼ぶのか?これこそがまさに「余計なお世話」であり「無意味行為」「迷惑行為」と呼ばれてしまうのです。つまり、サービスと余計なお世話を決定的に分けるのは「お客様の事前期待に適合しているかどうか」です。言い方を変えると、「お客様の事前期待を掴まなければ、サービスは提供できない」ということなのです。

 しかし、まだまだ多くのサービスが「良いサービスは喜ばれるに決まっている」という価値観で勝手にサービスを作って、お客様に一方的にぶつけているケースが非常に多いです。勝手に作ったサービスにで「余計なお世話」などを多く含んだサービスになってしまいます。これでは、お客様に喜んで頂く事は出来ないですよね。

 さてここまでで、サービスと余計なお世話の違いが「事前期待に応えているかどうか」であることが明確になりました。しかし、「普通のサービス」と「ホスピタリティーサービス」の違いはまだ曖昧です。そこで、お客様に高い価値を感じて頂けるサービスを実現するために、この違いにもフォーカスしてみたいと思います。


■「ホスピタリティーサービス」と「普通のサービス」は何が違う?

 先程のサービスの定義で最も重要なポイントが、「お客様の事前期待に応える」ということでした。しかし「事前期待」と一言で言っても、実は様々なタイプがあります。その中でも、どのタイプの事前期待に応えるかで、サービスに対する評価が大きく変わることが分かっています。

 例えば、全てのお客様が同様に抱いている「共通的事前期待」に応えても、それは「普通のサービス」や「当たり前サービス」という評価になります。しかし、お客様お一人お一人で異なる「個別的な事前期待」や、同じお客様でも時と場合によっていつもと違う事前期待を抱くような「状況で変化する事前期待」、お客様が思ってもみなかったような「潜在的事前期待」に応えると、お客様は心が温まったり感激して頂けて「ホスピタリティーサービス」や「感動サービス」といった、価値あるサービスとして評価をして頂ける傾向にあります。

*事前期待の構成要素(タイプ)と、それに応えるための努力のポイントについては、以前の記事「CS向上のコツ:どの事前期待に応えるか」で詳しくご覧いただけます。

 ホスピタリティーサービスの様に、価値の高いサービスという評価を頂こうと思ったら、どのタイプの事前期待に応えるのかを考える必要があるのです。ではそのために、具体的に明日から何をしたら良いのでしょうか?


■ホスピタリティーサービスを実現するために、明日から何をしたら良い?

 サービスの定義が示すように、サービスはお客様の事前期待を掴まないと提供することができません。しかも、ホスピタリティーサービスの様に、高い評価のサービスを実現しようと思ったら、どのタイプの事前期待に応えるかまで考えて、サービスを設計する必要があります。

 このとき、我々がよく行うのは、お客様を事前期待で定義をします。多くのサービスにおいてお客様の事前期待は様々です。にも関わらず、お客様の定義は「お客様」の一言で片づけられてしまっています。もしくは、BtoCビジネスであれば「年齢」「家族構成」「男性か女性か」など、BtoBビジネスであれば「業種」「企業規模」「新規か既存か」などで区別しているのみです。これでは、お客様がどんな事前期待を抱いているのかが分かりません。

 「30代独身女性のお客様」の全員が同じ事前期待であるはずがないですし、「中堅製造業の新規顧客企業」の全社が同じ事前期待であるはずはないですよね。

 そこで、お客様を「男性・女性」や「企業規模」の様なプロフィールで定義するのではなく、「お客様の事前期待」で定義をしてみます。すると、例えば「色々と相談したいお客様」と「手っ取り早く済ませたいお客様」とに分けてみると、サービスの現場でどんなサービスを提供したら良いかが明確になります。「30代独身女性のお客様」と言われても、現場では何を頑張ったら良いかピンとこないですよね。

*サービスサイエンスの具体的な方法論については、また別の機会にご紹介いたします。

 このように、サービスの定義をしっかりと理解した上で、「事前期待」の切り口でお客様を捉え、サービスを設計していくことができるかが、「余計なお世話」と「ホスピタリティーサービス」の分かれ道になると思います。「おもてなし」や「ホスピタリティー」の実現のために、具体的に明日から何をしたら良いのか?そのヒントとしてご活用頂けたら幸いです。







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松井 拓己

松井サービスコンサルティング ・サービスサイエンティスト

サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。           代表著書:日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新

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